スルメとサラミ、どちらも長男・次男の好物である。特に長男の療育帰り、車を運転しつつ、止まるたびに後席に座っている長男に一つずつ渡して食べさせてやっている。塩分の多さに思うところはあるが、ご褒美的な位置付けである。療育施設近隣にイトーヨーカ堂があって、いつも療育に長男を預けている裏で買い出しをしている。そこでこれら長男のご褒美も買っている。長男の言うスルメは、その商品名としては「あたりめ」である。 www.sej.co.jp 似たようなものとして、伍魚福の「一夜干焼いか」もよく食べる。これは長男のネーミングによれば「イカ」。 www.gogyofuku.co.jp サラミは以下等。これに関しては長男も「サラミ」と呼ぶ。 www.natori.co.jp 酒を飲むわけでもないくせに、酒のつまみ的な食べ物が好きなのだ。1
尚、以降の本エントリの表記は、長男の表現で言うところの「スルメ」「イカ」「サラミ」の定義に従う。
サラミをスルメと間違える
スルメやイカは大分以前から食べていたが、サラミを導入したのは最近である。ご褒美おやつの最初期はスルメであって、その後イカも食べる事が分かってからはイカばかりにしていた2。ところがある日、たまたまスルメもイカも売り切れていて、療育帰り長男のご褒美おやつ用に初めてサラミを買ってみた。その時点では、サラミ自体は他の機会で何度か食べさせた事があり、長男が好む事も分かっていたが、療育帰りでは初めてである。
長男を車に乗せた後、まず「今日はイカが無かったんだ」と言い、次いで「代わりにサラミがあるぞ」と言ってサラミを見せてみた。そうしたら「サラミ食べます」「サラミください」と言ってきたので一安心し、とりあえず一本渡してから療育施設を出発した。普段から、帰宅中にご褒美おやつを渡すタイミングは、信号等の理由で車が止まっている時、かつ長男が要求してきた時だけにしている。動いている最中に渡すのは危険運転に片足突っ込んでいるし、また、単にこちらから渡すのではなく長男から要求を発させたいのである。このルールは長男も理解しているようで、車が止まるたびに「〇〇食べます」とか「〇〇ください」などと言ってくる。3
さて件のサラミの日、出発後初めて車が止まった時、予期していた通り長男から要求があった。しかしその要求は「スルメください」であった。「スルメは無いんだよ、サラミならあるよ」と返したら「サラミください」と言い直してきたので、サラミを渡した。次のタイミングでは、最初「スルメください」と言いかけたが、途中で気づいたのか「サラミください」に言い直してきた。その後も何度か同様の言い直しパターンがあり、最後の頃にはすんなり「サラミください」と言うようになっていた。
長男には、与えられたものや与えられた状況が気に食わない場合、その時に得られようが無い代替を求める駄々を捏ねてくる節がある。しかしこの事象は、それには当てはまらないように思える。上述の通り長男はサラミも好きであり、「気に食わない」ものでは無い。そもそも、駄々捏ねの場合はこちらが「無いよ」と言ったところですんなりと聞き入れたりしない。指摘されてすぐに訂正したり、もしくは自分から言いかけた内容を引っ込めて言い換えたりしてきたあたり、単純にサラミをスルメと間違えたのではないかと見ている。
しょっぱい仲間・ご褒美おやつ仲間
では何故サラミをスルメと間違えたのだろうか、という点が気になる。これらは、少なくとも大人視点からは、かなり違うものである。
両方ともしょっぱいものではある。以前のエントリで少し触れたが、「しょっぱい」のような具体的実体を持たない概念を理解させるためには、それが与えられた時にその言葉掛けをしてやるのが良い、という事は療育の先生にも言われている。過去エントリを自分で書いておきながら、普段あまり実践できていない点ではあるのだが。実際、まだ「しょっぱい」という言葉と概念は長男には入っていないように思える。その状況において、味の方向性の近さ故に長男がサラミとスルメを間違えているとしたら、これは「しょっぱい」概念を導入するチャンスではありそうである。
長男にとってのご褒美おやつの一種である、という点もサラミとスルメの共通点ではあり、そこから連想して間違えた可能性も考えられる。特に療育帰りの車中におけるご褒美おやつとしてサラミを食べるのは初めてだった、という事は影響しうるだろう。この場面で「サラミ」という言葉が出てくるという事が、長男にとってかなり意外性の高いものであった可能性は大いにある。その点では、上述の通りスルメも、療育帰り車中のご褒美おやつとしては久しく食べさせていないのだが。それでも、この場面で食べていた実績があるにはある。
ただ、これら二つの分類に基づく考え方だと、何故イカとは間違えなかったのか、という事を説明できない。イカもしょっぱいものだし、ご褒美おやつの一種でもあり、しかも療育帰り車中にて頻繁に食べているものでもある。それにも関わらず、この時長男が間違えて発言した内容は常に「スルメ」であり、イカとサラミを間違える事はなかった。
S○R○M○
そのような事も考えながら車を運転しつつ、一方で、なんとなくスルメとサラミが似ているような気がする、ということも思っていて、何故だか分からないでいた。帰宅後しばらく考えていたら、この二つは言葉として音が似ているのだという事に気づいた。まず第一に、両方とも三音で構成されている。しかも、発音する時の口の動きが、とても似ている。
スルメもサラミも、母音は異なるが、子音だけ取り出すと共に「SRM」である。シを除くサ行音(S)の発音は、上の歯の裏に舌を当てて息を出す。ラ行音(R)の発音は、上の歯茎を舌で弾く。マ行音(M)は、唇を閉じて溜めた音を唇を開いて放つ。この口周りの動きの流れが、スルメもサラミもそっくりである。本題から逸れるが、同様の子音の並びを持つ「すり身」等も同じ口の動きをする。
更に、母音は異なるとはしつつも、そのパターンというか、リズム感は同じである。スルメの母音は「UUE」、サラミの母音は「AAI」で、構成する音自体は違うが、最初の二音が同じで次に違う一音、というパターンが共通している。上述の子音の一致と合わせて、二つの言葉の響きを似通ったものにしているように感じられる。一方、アクセントは異なる。少なくとも私と長男の発音4においては、スルメは二音目「ル」以降にアクセントがあり、サラミは最初の一音目「サ」にアクセントが乗る。ただ、その違いにも関わらずこれら二つの言葉に音声的類似性を感じるという事は、その感覚にアクセントが与える影響は大きくないらしい。
もし、この音声的類似性、ひいては発音する時の口の運動の類似性のために長男がサラミをスルメと間違えていたのだとしたら、それはとても面白いなと思った。言葉の理解や獲得に、自らの発声運動が強く関与しているという事である。それはとてもありえそうな話で、言語発達関連の教本等読んだら普通に書かれている事なのかもしれない。仮にそうだとしたら、器質性の構音障害がある子の言語発達はどうなるのだろうか。その手の調査も調べたら見つかりそうな気がする。興味深い分野である。
結局理由は分からないけれど
しょっぱい仲間だからなのか、ご褒美おやつ仲間だからなのか、はたまた音が似ていたからなのか、長男がサラミをスルメと間違えた理由が実際に何だったのかは分からない。何で間違えたのか教えて欲しいくらいだが、それを聞いてみて答えが返ってくるようであれば何の苦労もない訳で。
その点、検証しづらいというよりほぼ出来ない状態ではあるのだが、長男の不思議行動を起点とした知的探究は面白い。だいぶ以前のエントリで触れた事でもあるが、久々にそれを思い起こす今回の「スルメとサラミ」事案であった。